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そう、このマンションの一室は忍者の集まりである。
世間体では子供を引き取っている男の家とされているが、実は男も引き取られた子供も元は忍者なのだ。
政府の『忍者絶滅計画』から生き残った者達の集まりだった。
今登場した翠、氷苗、菫の三人は当時住んでいた村を政府軍に襲われ、生還した者達である。
「私達はあんな事があったからって今こうしてのうのうといる訳ではないの。世の中には私達(忍者)を求めている人は沢山いる。そこで私達はその人々から仕事をいただいているわ」
翠が翠と分かった後、氷苗は今までのいきさつなどを翠に話している。
「もちろん、裏でだけどね。私達は仕事の事を『任務』と呼んでいるわ」
「主(あるじ)はお主か?」
氷苗の話に頷きながら、翠はここに来てからの疑問を言う。
「ううん。主は今は仕事で留守にしているの。ちゃんとしたサラリーマンよ。ただ、たまに任務持って来ちゃうけどね」
そう氷苗は苦笑い。
どうやら、氷苗は任務をあまり好ましく思わないらしい。
翠は、それを見抜く事はできなかった。
ガチャッ
話をしていると、ドアからスーツを着た男が入って来た。
「おかえりなさい。主」
翠は勢い良く立ち上がった。
「あ、主じゃとっ!?」
入って来た男を見て心底驚いている様だ。
男は翠の存在に気づいて、翠を見る。
「誰だお前は」
「会った事あるじゃろーがっ」
男の発言に翠は即座に突っ込んだ。
この男は、翠をこのマンションへと招き入れた男である。
それを『誰だ』と。
普通なら怒りを覚える位だ。
「主、今日から入る翠ちゃんですよ」
ここで氷苗が二人の間に入る。
男は氷苗に言われてようやく納得したような顔になった。
「そうか。私はこの忍者の集まりの主をしている。仕事先から任務を持ってきたり、他の忍者の集まりを支援したりする事が私達の任務だ」
(………そんなもん、分かっとる)
翠は心の中でつぶやく。
目蓋を閉じれば見える。
優しい記憶。
ふと奪われた者たち。
命が途切れる瞬間。
「………翠ちゃん、大丈夫?」
氷苗に呼ばれ、翠は我に戻った。
男はもうその場には居ない。
「大丈夫じゃ。……主はどこ行ったんじゃ?」
「今日はもう寝るって。自分勝手でごめんね」
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