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ガキィン!!
「手と足を合わせて動かすな」
キンッ
「クナイの無駄だ」
森の中。
翠は忍び装束に身を包み、木々の上で動き回る。
対する相手は主の狗威(いぬい)。
彼らは今、忍道具の鍛錬を行っている。
「……休憩に入る」
狗威がそう言うと、二人は一斉に地面に足をついた。
翠はとても息が上がっている。
対して狗威は全く体を動かしていないという感じの落ち着き様だ。
「はぁ…はぁ…あ、主は疲れておらんのか?」
「お前の体力が少ないだけだ。これからの任務に備えてお前の体力を鍛え上げるのと同時に昔の力も引き戻してもらおう」
翠の昔の力。
それは忍者の村で修行してきた時に身につけた物だ。
(と言ってもワシは忍道具の使い方位しか知らんぞ…)
忍道具は忍者の基本中の基本。
忍術に比べたらほんの一欠片にもならない。
「一つ…」
狗威はまた口を開く。
「今日、夕方にお前の中学校へ挨拶しに行く。制服はもうそろそろ届く頃だ」
言われた途端、翠は目を輝かせる。
この時の忍者はほとんどの者が学校に通っておらず、学問を習うとしたら村の中で読み書き程度でしかなかった。
つまり、産まれてから忍者だった者は小学校も中学校も通っていないという事になる。
「休憩終了だ。始めるぞ」
「はっ!」
少し雑談した後、すぐに鍛錬開始。
二人はまた木の上に飛んだ。
夕方
黒いセーラー服に藍色のスカーフ。
襟と袖の裾には二重の白い線入り。
スカートの長さは膝下。
靴下はハイソックスの白。
中学の制服に着替えて、髪を高く上げて結う。
「まだか」
ドア越しに狗威が言う。
「もう行くわ!」
それに翠は大きめの声で答える。
さっきから何度も何度も言われていたらしく、少しイラついていた翠。
筆記用具とファイルを学校指定の鞄に入れ、部屋を出た。
待っていたのは狗威と制服姿の氷苗。
氷苗の制服はスカーフが真紅色だ。
学年によってスカーフの色が分けられ、一年が藍色。
二年が若葉色。
三年が真紅色だ。
「主、そんなに急がなくても時間は充分間に合います」
翠が部屋から出るのと同時に狗威は玄関へと向かう。
慌てて氷苗はその背中を追い、翠も追った。
「念の為だ。……それに今夜は任務が入っている」
早めに終わるなら終わらせたい。
と、狗威は言う。
翠の横に並んでいる氷苗はまた苦笑を浮かべた。
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