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マンションから中学校までの道のりは徒歩で約三十分。
夕方と言っても三時半程度なので、まだ部活をしている人が大勢グラウンドにいる。
校舎からは吹奏楽部の楽器の音がむちゃくちゃに鳴り響く。
氷苗に案内をしてもらい、翠、狗威、氷苗の三人は職員室に向かった。
コンコン
氷苗が職員室のドアにノックを二回入れ、「失礼します」と言って氷苗はドアを開けた。
「教頭先生はお見えでしょうか」
「はい。いますよ」
奥の方から男性の柔らかい声が聞こえ、一人の男性が翠達に歩み寄る。
「私に何か用かな」
眼鏡をかけた四十代位の男性で、少しぽっちゃりとした体型。
顔はニッコリ顏がよく似合う人だった。
「三年二組の玖月です。来週からこの学校に転入する一年の西島さんをここまで案内させていただきました」
ぺこりと頭を下げ、氷苗は説明を入れる。
男性、いわゆる教頭はさらにニコリと微笑む。
「そうですか。わざわざありがとう。それでは玖月さんは廊下の長椅子で待ってて下さい。西島さんと保護者様はこちらへ」
指示された通り、氷苗は職員室の前の長椅子へ向かう。
翠達は教頭に着いて行き、校長室らしき場所へと通された。
「校長、西島さんが見えました」
そう教頭が中の校長に声をかけると、ドア越しに「どうぞ」と返事が聞こえる。
教頭がドアを開け、引き戸な為ドアを引くのと同時に翠達を先に中に入れた。
部屋の中に一番に見えたのが、中央に高さ40センチ位のガラステーブルに、黒い革でできたツインソファーが対面して置かれてある。
テーブルはガラスといっても脚とふちは木で出来ている。
テーブルとソファーの下にはシンメトリーに彩られたカーペットが。
翠達から見て左手前には大きい鉄の箱があり、手前に開けて物を入れるいわばクローゼットみたいな物なのだか、取っ手には太い鎖が何十にも巻かれ、頑丈な鍵で閉めてある。
その一つ奥には、これまた難しい本の並ぶ本棚。
右手前にはちょっとした手洗い場。
そして、両面向かい合って壁の上には代々受け継がれてきた校長の写真が並んで置いてある。
「キョロキョロするな」
途端、狗威の手によって翠の首の回転は止められた。
「まぁまぁ、狗威さん。この子は学校は始めてなんでしょう。色々気になるのは仕方がありませんよ」
一番奥の翠達に向けられた机から、そんな優しい声が聞こえてくる。
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