1人が本棚に入れています
本棚に追加
ぶたれた頭を抑えてうつむいていた翠は、声のする方に顔を向けた。
机に手を置き、その人は立ち上がる。
翠の近くに歩み寄って来たかと思うと、左手を差し出してきた。
「初めまして。この中学校の校長です。これから集団生活や人間関係など、沢山の事をここで学んでいって下さい」
教頭に負けず劣らずの優しい笑顔で翠を見て言った。
翠はジッとその顔を眺める。
「おい。握手も出来んのかお前は」
狗威の言葉に慌てて翠は校長の手を両手で握る。
「西島 翠じゃ。よろしく頼む」
そう言ったらまた狗威にぶたれる。
二度もぶたれて翠は少々イラっときたのか、狗威を睨みつける。
「目上の人に敬語も使えんのか貴様は。恥を知れ」
全然怖くなど無いと言わんばかりに狗威は翠を睨み返した。
しかし、翠も負けずに睨む。
「まぁまぁ、お二方。立ち話も何でしょうに。そちらへ腰をお掛け下さい」
見るに耐えられない空気に、教頭は水を入れた。
渋々二人はソファーに掛けるが、お互い睨む事をやめない。
歪み合っているにもかかわらず、何故か二人は隣同士に座る。
正気はあるんだなと思い、教頭と校長は胸を撫で下ろした。
教頭と校長も翠達と向かい合わせになってソファーに腰掛ける。
「先ほどは失礼いたしました。礼儀はこれからきちんと覚えさせてゆきますから、お許し下さい」
ペコッと頭を下げて狗威は謝罪をする。
翠も慌てて頭を下げた。
「構いませんよ。それより、早速転校手続きと参りましょうか」
校長はニコリと微笑み、封筒をガラスの机の下から取り出した。
封筒の封を開けて、中身を取り出し、翠達に見やすいように広げて見せた。
胸ポケットに入る大きさの生徒手帳と校章バッチを受け取り、かれこれ三十分位学校の説明や雑談などを入れ、話は終わった。
「何なんじゃ!?あの長ったらしい話の内容は」
マンションへの帰り道。
翠は学校の説明が長かったのに気に入らなかったらしい。
カバンの中は書類やら何やらで行き道より遥かに重くなっている。
何やら、というのは帰りついでに夜ご飯の足りない材料を買ったのをそのままカバンに投入したからである。
「仕方がないだろう。貴様は学校というものを全く理解していないから一から説明せねばならなかったんだ」
「そんなモン、行っていく内に分かってくる」
狗威の言葉に翠は答える。
最初のコメントを投稿しよう!