最終章

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泣きそうだった。 思わずそのちょっと困った顔を見た途端に、 涙腺が… だけど、 何とかそれを抑えて。 「無事で良かった…」 どうしてすぐに電話をしてきてくれなかった? そんなことを口をついて出てきそうなのを ぐっと我慢した。 「ごめんなさい。 心配かけて…」 彼女の情けなさそうな顔を見たから。 ベッドの傍に立ち、 手を握ろうとしたときに、 看護師が入ってきた。 「検査に参りますね…」 そう言って車いすに彼女を座らせた。 夕方、また来ます。 ひとまず、元気な顔が見れて安心したんだ。 ランチの営業が終わってから、 段取りをつけてから来れば、 後は面会時間終了まで一緒にいられると、 ちょっと嬉しかったりして。 こんな時に不謹慎だけど。 だけど、 だけど。 病室に訪ねてきたのは松田遙人。 まだ関係が続いてるのか? やっと二人になれたのに… 私には見せない眼差しだった… 彼女の彼を見る瞳は フツフツと沸き上がる何か…強い… 嫉妬と言うものだろうか。 出たくなかったけど、 俺は部屋を出た。 澪さんを見ると… こっちを見てくれてた。 なんか、 それで… それだけで良かったんだ。 それだけで。 部屋を出て、ドアの前から動けないでいると、 「遙人くん。 昨日は希を面倒見てもらって、 ありがとうございました…」 そんな声が聞こえて… よけいに動けなくなったんだ。
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