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ずっと興味があったエステの仕事。
尊夜が居なくなって、暫くしてから学校に通い始めて
チェーン店での勤務経験を終えて二年前から廣瀬家でこうしてお客様を招いて
マッサージを行っている。
「サクラさん、ようやく予約が取れたわ。
貴方、最近人気なんだもの」
「有難うございます。
おかげさまで皆様に贔屓にして頂いています」
そんな会話をしながら、エステの準備をしていく。
フェイスからボディーそしてハンドにフット。
順番に全身をくまなく施術していく。
今日のお客様は、紀天の同級生のお母さま。
こうして、紀天を通して知り合ったお母さんたちが
今は私にとっての上お得意様になってくれていた。
四時間くらいかけて、宝生さまの全身のお手入れをした後
送りだしてキッチンへと向かうと、今度は睦樹さんたち昼食の後片付けと
夕飯の下ごしらえを終えて、再びお客様の元へ。
二人目のお客様の施術を終えて、晩御飯を食べて
後はゆったりと過ごす時間。
そんな生活が私を支え続けてくれた。
そして……その時間がずっと続いていくと思っていたのに、
昂燿校に転校した紀天が、デューティーとしてお世話することになったジュニア。
その存在に私は驚いた。
瑠璃垣伊吹。
葵桜秋の生んだ子が、紀天のジュニアになったのだから。
紀天から最初にその知らせを受けた睦樹さんは、
「咲空良さん、ずっと幸せな時間を過ごしてきたと思うけど
だけど……今の俺たちの上には、星がないままだ。
尊夜という星が存在しないまま、俺たちは真っ暗な夜を必死に
歩き続けてきた。
だけど……それは、怜皇や咲空良さんの妹も同じだと思ってる。
だからこそ、もう一度俺たちの上に星が輝くのを、
家族の時間が動きだすのを俺はそれを信じてる。
こんなにも時間がかかってしまったけどな」
そう言って睦樹さんは笑った。
後で知ったことは、紀天に昂燿校への転校のきっかけを作ったのは
睦樹さんだったということ。
睦樹さんは昂燿校に、瑠璃垣伊吹と言う名の子供が通っていると言う情報を
仕入れていたということ。
そして……怜皇さんに久しぶりにコンタクトをとって、
瑠璃垣の封印とされる秘密の噂をぶつけた。
伊吹と志穏が今は入れ替わっているかもしれないと言う世間の噂。
怜皇さんは否定も肯定もしなかったけど、
『俺たちの宝物は昂燿校に居る』そう教えてくれたらしい。
俺のではなく、俺たちの宝物。
怜皇さんのその言葉が、瑠璃の封印として噂されるものが肯定を意味するのだと
睦樹さんはわかった。
瑠璃垣の家の子供として歩き出している尊夜が、廣瀬尊夜としてこの家に帰ってくることなんて
出来ない。
あの子はもう次期後継者として、その重責を背負う身となってしまっているのだから。
だから紀天と尊夜が、兄弟のように振舞うことは難しい。
だけど……唯一、そう言った雰囲気で振舞うことが許されるのが、
睦樹さんと怜皇さんの母校であり、紀天や尊夜が通っている神前悧羅学院のハウス・ブレイン・ワーク制度。
デューティーと呼ばれる先輩が兄姉として、ジュニアとなる弟妹を面倒見ていく独自システム。
そうして小さい間から社会の厳しさと、絆を育んでいく。
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