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瑠璃垣伊吹として生きる尊夜が、紀天のジュニアとして存在するようになった時から
私と睦樹さんは、時折、怜皇さんとの時間を作るようになった。
逢う場所はいつも、priere de l'ange(プリエールデランジュ)。
怜皇さんの実母と、再婚相手となった旦那さんが経営するお店。
そしてそのお店には、よく尊夜が「瑠璃垣伊吹」として出入りしている店だった。
紀天から聞く昂燿校での尊夜の話。
怜皇さんから聞く、空白の間の私の知らない尊夜の話。
そう言った時間は、ゆっくりと私の空っぽだった隙間を少しずつ埋めてくれるようになった。
紀天と尊夜の出逢いから四ヶ月目の、その年の夏休み。
私たちの時間が再び、大きく動き出す事件が起きた。
紀天がデューティーである三杉さんから連絡を貰って、
瑠璃垣伊吹が亡くなったと言う一報を睦樹さんへと寄越した。
その一報は私たちに大きな影を落とす。
不安の中、睦樹さんが怜皇さんに連絡を取ったところ亡くなったのは、
ずっと闘病生活を続けていた葵桜秋の息子だと言うことだった。
「睦樹さん、私を瑠璃垣のお屋敷へ連れて行って」
我が子を失ってしまった葵桜秋の悲しみを想像すると、
居てもたっても溜まらなくて、睦樹さんへとお願いする。
睦樹さんも私の想いをくんで、怜皇さんへと連絡を取ってくれる。
怜皇さんの承諾を得て私たちは睦樹さんが運転する車で、
瑠璃垣の邸を目指した。
途中の駅で、昂燿校から帰省途中だった紀天と合流して。
後部座席に乗り込んだ紀天は、黙ったまま何か考え事をしているみたいだった。
そんな紀天に、運転席の睦樹さんが話かける。
「紀天、お父さんはお前に話しておかないといけないことがある。
お前を産んだ母親は、心【しずか】だってことは小さい頃から知ってるよな。
お前を育ててくれた咲空良さんは、 心【しずか】の親友で、
俺の親友、瑠璃垣怜皇のフィアンセだった。
紀天、俺たちが咲空良さんと呼んでる人の戸籍の名前はなんだ?」
「廣瀬葵桜秋」
「あぁ。
葵桜秋……それが、咲空良さんの今の名前。
だけどその葵桜秋の名前は咲空良さんの双子の妹の名前なんだよ」
睦樹さんが告げた真実に、紀天は言葉を失ってしまう。
戸惑っている紀天に、睦樹さんの言葉を補足するように
私は更に語り続ける。
「昔、私と葵桜秋は、怜皇さんをめぐって恋に落ちたの。
当時の私は、恋に前向きに慣れなくていつも自分に自信がなくて。
何かあると輝いて見えた、妹の葵桜秋にすべて任せてた。
私たちは一卵性の双子で、そっくりだったから。
そうやって怜皇さんを騙してるうちに、神様が罰を与えたの。
妹の……葵桜秋のお腹に、怜皇さんの赤ちゃんが宿った。
世間体を気にして、その日から妹は咲空良になって私は葵桜秋になった。
妹が結婚した後に、私の妊娠してることがわかった。
それが尊夜。
全てを知って、紀天と睦樹さん、そして心【しずか】は
私を家族に迎え入れてくれた。
生まれてくる尊夜と一緒に、5人で新しい家族になろうって。
だけど生まれてすぐに、病院から尊夜は居なくなった。
出生届だけは、役所に届け出ることは出来たけど
その日から一度もあったことはない。
妹とも……葵桜秋とも、その日からあっていない。
そして怜皇さんとも。
退院して1ヶ月ほどして、怜皇さんの名前で
私と睦樹さん宛に、二人の赤ちゃんの写真が届いたの。
その裏に書かれていた名前が、瑠璃垣伊吹と瑠璃垣志穏。
今も尊夜は見つからない」
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