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「葵桜秋、ちゃんと眠ってるの?
ご飯は?」
相変わらず、お姉ちゃんは昔みたいに優しくて
穢れなど感じさせない清らかな存在。
凄く嫌だったその姉の優しさが、
今は心に染みわたる。
「大丈夫。
心配かけてごめんなさい。
だけどお姉ちゃん……お願い……。
私の我儘を聞いて。
私……怜皇さまと離婚するの。
私はお姉ちゃんにはなれない。
それに……今は私の生きがいである我が子ももう居ない。
私の名前を返して……お姉ちゃん」
縋るように告げた言葉に、お姉ちゃんは
黙って私を包み込むように抱きしめた。
翌日、離婚届にサインをして怜皇さまに預けると、
そのままお辞儀をして実家へと帰った。
実家の両親は姉が全てを説明してくれていたのか、
ただ何も言わずに、私を受け入れてくれた。
自分で臨んだ入れ替わりだったのに、
こんなにも実家に帰れてほっとしてる私が居る。
「葵桜秋、お帰り」
そう言って本当の名前を紡がれるたびにホッとする私が存在する。
「有難う。お姉ちゃん……」
「ほらっ、疲れたでしょ。
今日は早く休みなさい。
久しぶりの実家で、お父さんにもお母さんにも思いっきり甘えたらいいわ」
そう言って、姉の優しい声に誘われるように私は久しぶりにゆっくりと眠れた気がした。
翌日、姉に連れられて私が向かった先は、
姉がいつも生活を続けていた廣瀬家。
廣瀬家の家長である睦樹さんの目の前で、姉はゆっくりと言葉にした。
「睦樹さん……妹が、葵桜秋が怜皇さんと離婚しました。
私もこの名前を妹に返したいと思っています。
私たちはずっと星のない夜を彷徨い続けていたように思うの。
だけど……今なら、終わりに出来ると思ったから。
離婚届にサインして貰えますか?」
そう言って姉が私の名を記載していた離婚届を睦樹さんの元へと差し出した。
睦樹さんは私の目の前で、離婚届を記入してくれた。
そして、ゆっくりと姉に向かって告げた。
「咲空良、君はどうするの?
こうなった今、怜皇の傍に戻るの?」
睦樹さんのその言葉に姉はゆっくりと首を振った。
「怜皇さんとの時間には戻らないわ。
今の私のパートナーは睦樹さんだもの。
離婚しても……この家に居させてもらっていいですか?
そして……落ち着いたら、もう一度私を家族に迎え入れて頂けますか?」
私の目の前で今まで支え続けてくれた廣瀬さんにはっきりと告げる咲空良。
その咲空良に昔の弱さなんて感じられなかった。
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