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「着任おめでとう、斎藤少将。」
「──魅島総官!」
着任式が閉会し、鎮守府の施設内を歩いていた時。ある人が俺に声をかけてきた。
白い髭を生やした老年の男性。如何にも歴戦の軍人という貫禄を出す其の人物に、俺は敬礼する。
「御無沙汰だね、斎藤くん。」
「はい、御無沙汰しています。」
「とうとう君も提網監督か。彼女と……同じ場所に。」
「……はい。」
この人は呉鎮守府管轄の総官、魅島貴弥(みしま・たかや)。姉貴が提網監督であった時期を知っていた人物だ。
姉貴はこの人に鍛えて貰ったとも言っていた。だからこの人が、きっと一提督時代の姉貴を一番知っている人だ。
そして、姉貴の最期も……見ている人なんだ。
「……本当の事を言うと、私は君が軍人になる道を諦めて欲しかったんだ。君の人生は過酷であるべきじゃないと……」
「ありがとうございます。けど……自分で決めた事ですから。」
「……なら私が止める理由は無い。」
「『覚悟は自分で決めてこそ、強く固いもの。』」
「────!」
暗い表情と声音で話す魅島総官に、俺はそう答えた。
「……昔に姉貴が、そう教えてくれました。」
「……彼女が、色々と教えてくれたんだな。」
この言葉を始めとして姉貴は、軍人に憧れていた俺に語った言葉だ。
俺にとって、姉貴の言葉は全て重みのあるものだ。短い俺の人生で色々な事を教えてくれて、俺の心に刻み込まれている。
「全く……血は争えないね。健闘を祈るよ。」
「はっ!」
魅島総官は去り、俺はその姿が見えなくなるまで敬礼を続けた。
俺の覚悟は、確かだった。
本当に、確かだった。
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