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「ちょっと、お出かけしてくるね。」
あの子は、花のような笑顔で言ったから、私は気付けなかった。
本当に、ちょっとそこまで散歩に出かけてくる、という調子だった。
あの子がこんなに長い旅に出るなんて、私は知らなかった。
あの子がいないとこんなに淋しいなんて、私は知らなかった。
あの子が行ったあと、私の元に一通のメールが届いた。
そのメールはもう消去してしまったけれど、あの子の残した最後の一文が、私はどうしても忘れられない。
『あなたが好きでした。一緒にいられる未来があるなら、望んでしまうくらい。』
私は、私は、本当に何も知らなかった。
あの子を愛していたことも、あの子に愛されていたことも。
二人が、共にある未来。
あの子が壊してしまったけれど、私は、そこにあったはずの幸せを追わずにはいられない。
帰っておいでよ。
おかえりなさい、って言うから。
私の涙は、黒いリボンのかかったあの子の写真の上に落ちた。
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