第1章

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3年ほど経った頃、淳子は知り合いの勧めで見合いをして、まもなく再婚を果たした。高校受験を控えた和彦にとっても生活のレベルが上がることは嬉しいことだった。和彦は複雑な心境であることは確かだったが、新しいお父さんの経済力や人となりを知るようになってからは、もう若くない母親の幸福を考えても決して負の選択ではないように思った。  「このホテル、なかなかいいんだよな。年末はみんなでのんびりハワイでも行くかぁ?」 ある晩、新しいお父さんが茶の間でテレビを観ていた家族に言った。 「ハワイは若いうちに一度くらいは行っとかなきゃなぁ、和彦君」 淳子が苦い顔つきで笑った。 「はい、でも僕、大人になってからでも別に構いませんけど」 和彦の言葉がしばし中空でささくれていた。それほど気に障ったわけでもないだろうが、なぜかこの時、和彦は新しいお父さんに一矢を報いたい気持ちになった。新しい家族に対しての一撃であったのかもしれない。そうでもしなければ今度は自分が消え入ってしまうような、そんな気がしたのである。新しい弟と妹は黙ってテレビを観ていた。タレントたちのハワイ旅行という趣向の番組で、中でタレント同士がワインを飲みながら軽い会話をしていた。カラカウア通り沿いの高級ホテルのレストラン。 「初めて海外旅行した時って、もうそれだけでリッチな気になったものだよ」 「そうですよね、僕は最初の海外旅行もこのハワイでした」 「でもさぁ、お金持ちはビジネスとかファーストで行くんだって知った時、なんだかまた自分が小さく思えた」 「僕もそんなものがあることすら知りませんでした」 「それにしても美味しいワインだねぇ」 「オーパスワンですね、それにこんなご馳走とこの綺麗な景色」 「心が純粋になっていくなぁ」 「幸せな気分になりますね」 ニュース速報で遠く戦争が始まったことを伝えるテロップが繰り返し流れ出した。誰が番組を観ていて、誰がニュース速報を観ているのか分からないままに、新しい家族はただ黙っていた。こんな時「戦争じゃあ、海外なんて行ってられないなぁ」と前の父親ならそう言い訳するに違いないと和彦は思った。思ってそれをいとおしく懐かしんだ。新しいお父さんにも言い訳をして欲しかった。和彦は急に今を泣きたくなった。
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