第一章 中富川合戦 その一

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 持ち帰られた使者の髷を見て、元親は馬上にて膝をたたき。 「でかした」  と大笑した。  長宗我部勢二万三千は阿波に入り、一路勝瑞の地を目指していた。  旗印であるかたばみの旗が、阿波路になびいている。  それを指揮する元親は、存保の答えに満足そうだった。  たくましげに髭をたくわえた四十三歳の働き盛り。四国を征して、天下をも狙おうとする野望を燃え上がらせていた。その踏み台として、勝瑞の地を落とし、阿波を占領する。余力をもって、讃岐も占領する。  ちなみに伊予(愛媛県)は土佐西部の家来の率いる別働隊が攻めている。元親率いる本隊は京への足がかりとなる阿波・讃岐というわけだ。 (生意気な若造)   というのが、元親の存保への印象だった。下手に降られても、あとあと面倒そうなことになるかもしれない。たとえば、あとで謀反を起こすとか。  そんなことになるくらいなら、討ち滅ぼした方がいい。存保のような誇り高く意気盛んな男を家来にするのは、火種に藁束をおっかぶせるようなものだ。  誰しも、藁の下でくすぶる火種の心配などしたくないものだった。  いやそれよりも。 (十河存保という男、生意気ではあるが骨のある男よ。そのおかげでどのような戦ぶりを見せるのか、楽しみが増えたと言うものだ)
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