第1章

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「雪を見たカエル」 1匹のカエルが雪を見つめています、あり得ないことですが。そしてこの風景は1枚の絵となり、今、僕の手元にある。僕がこの絵を描いた画家と知り合ったのは1年くらい前のこと。画家の名前それをN氏としておきます。 知らない町のどこか、1匹のカエルが大きな家に住んでいました。あまり出かけることもなく、もっぱらPCで情報を集めて、生活に必要な雑貨や食料もネットで購入していました。カエルは日々、好きな映画をDVDで観たり、PCでチャットしたりして過ごしていました。 映画好きが集まることで有名な「シネマの国」のチャットに初めて参加したのはある日のことでした。カエルのHNはカエルでした。これは冗談として受け止められましたし、彼にしても虚偽ではないだけに安心できるものでありました。 外は雨が降り続き、その日のカエルはとても上機嫌でした。彼はまず「今晩は、はじめまして>ALL」と打ち込みました。彼が入る前の会話では最近の映画の話から、好きな俳優の話で盛り上がっているところでした。 「今晩は>カエル」というレスが瞬時に何人かの参加者から返ってきました。なかでもMOMOというHNからは“♪”マーク付きの親しみのあるレスがありました。カエルは常に孤独でしたから会話にいつも飢えていました。それがチャットであれ、彼にとって、自分が書き、それに応えて誰かが書いてくれるというのは、自分が誰かとともに生きているということを実感できる喜びでした。 カエルは自分がカエルということに劣等感を持っていると同時に自己の知識に対する自負心から、仲間とはあまり遊ばなかったのです。 「僕は『雨に唄えば』のジーン・ケリーが好きだな>ALL」 「古い映画だよね>カエル<俺も好き」 この反応があったのはN氏からでした。 「昔の映画が好きなの?>カエル」 MOMOはそれまでの話に外れていたのか、カエルとの会話にのってきました。 「私も結構、古い映画観るよ。ビリー・ワイルダー監督の作品とか好きです>カエル」 「僕も好きだけど、でもエルンスト・ルビッチも好きだな>MOMO」 「私、知らない、その人、監督?>カエル」 「ビリー・ワイルダーが尊敬してた監督で、彼の事務所の壁には“ルビッチならどうする”っていう紙が貼ってあったって何かで読んだことがあるよ>MOMO」 「『ニノチカ』とかいいよね、面白いし>カエル」 N氏も会話に入ってきました。
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