第1章

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「うん、グレタ・ガルボではあれが一番好き>N」 「ふたりとも詳しいんだね>カエル&N」 「ところでMOMOって、ミヒャエル・エンデの『MOMO』から?>MOMO」 「分かってくれた!>カエル」 「時間泥棒と闘う話だよね、映画も好きだけど、本で読んで好きになった>MOMO」 「せっかく盛り上がってきたところだけど、私、そろそろ落ちるね、眠くなってきたし>ALL」 「はい、またね>MOMO」 「どこに住んでるの?>カエル」 落ちる間際にMOMOがカエルに聞きました。 「水辺(笑)>MOMO」 画面には「MOMOさんが退室しました」というログが残りました。その後、カエルはN氏と映画談議に華を咲かせ、会話の合間でN氏が画家であること、そして妻と子供ふたりの4人で暮らしていることを知りました。カエルは自分のことはあまり話しませんでしたが、ただN氏が「何歳ですか?」という質問を投げかけてきた時は思わず「36歳です」と答えてしまいました。カエルはウソをつきました。というより自分が人間として何歳なのか、即座になんと答えていいのか分からなかったのです。 世の常なる習いとして、ひとつのウソは次のウソを生み、したがってカエルは、ひとりの人間として、ひとりの映画好きな男性として形成されていきました。それまでカエルは他のチャットで自分のことを何も書きませんでしたが、カエルにウソをつかせたのは、もしかするとMOMOとN氏の優しさに、ふたりを失いたくないという勘のようなものが働いたのかもしれません、。 それからというもの毎夜のようにカエルはそのチャットで遊びました。MOMOもN氏もなかなかの出席率で、当然のように3人は親しくなっていきました。MOMOは独りぼっちのカエルにして十分に魅力的な女性でした。彼女もまたあまり自分のことを話しませんでしたが、謙虚さと柔らかな優しさがその文字から伝わってきました、そしてどこか寒い国を思わせるような寂しさもありました。 MOMOの登場はいつもだいたい深夜3時過ぎでしたが、それは彼女が夜の仕事をしていることが理由でした。このことはカエルもN氏も少しして彼女からの書き込みで知りました。別段、それを知ったからといって何も変わらなかったですし、以前よりも関係は近づきつつあるようでした。
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