第1章

5/10
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
カエルが頭に描く理想の男性のセリフではありません。彼女からのアプローチにも関わらずカエルは断わりました。それから彼は悶々として深く悩み続け、彼女への思いが募れば募るだけ、会いたい気持ちは高まりました。この恋は彼を苦しめました。まさか本当のことは言えないし、言ったところで信じてもらえるわけのないことです。カエルは神様にもお祈りをしました。昔の神話や童話を読んでは人間になれるような儀式も勉強しましたが、しかし現実はカエルを人間にしませんでした。 MOMOはといえば、自分の客としてカエルを呼ぼうと思っただけのことでした。それが彼女の利益につながることでしたし、また切ろうとしてなかなか切れない男に貢ぐ金にもなるかもしれないことでした。彼女は習性としてある意味、男を惹きつけるプロだったのです。 カエルは思い切ってN氏に相談しようと考えました。N氏に話してもとても信じてもらえるとは思えませんが、とにかくこの気持ちを誰かに伝えたくてどうしようもありません。ある夜、カエルはN氏を個室に誘いました。 「実は、僕、MOMOさんが好きで好きでしょうがないんです」 「いいじゃない、応援するよ。彼女、いい女っぽいしね」 「でも……」 「何?」 「僕、カエルなんですよ」 「カエルだよね……」 続く会話でN氏はカエルの話を信じたようです。正確には「信じるよ」という言葉のレスだけでしたが、実際、N氏にはそれが本当のことであろうと、作りごとの冗談であれどちらでもよかったのでした。 「で、どうする?」 「会いたいんです、無理なことは分かっていますが、ひと目でいいから彼女に会いたい」 「MOMOの住んでいるところとか知ってるの?」 「それが何も知りません、電話番号も知らないんです。なぜかって僕は言葉を話せませんし」 「そうか、分かったよ、じゃ、俺が彼女の所在を聞いてあげるよ。俺なら彼女もそんなに抵抗ないだろうし」 季節は早や秋を過ぎ、すでにせっかちなショーウィンドウはクリスマスの飾り付けを始めていました。この時期まで眠らずにいること自体、カエルにとっては肉体的に苦痛であり、寒い季節の到来は死を意味しました。 「今晩は>ALL」とカエルがいつものようにチャットに入りました。誰もいません。誰かがこのチャットを覗いているかもしれませんが、その静かな夜は彼を詩的にしました。彼女への想いが文字となって熱く溢れ出 ました。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!