第1章

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僕は形もなく重さもなく 宇宙の中にいて、時間とともにいる 僕はただの言葉なのかもしれない 誰かに会うまでは 君に会うまでは 僕は何? 僕は誰? 君もまた自分を知りたがっている 自分の本当の姿を 君に会いたい 君に会うことが僕の夢 でも君への想いは伝えられない なぜなら僕は君に相応しくないから 君に会いたいけど、会いたくない なぜなら僕はきっと嫌われるから もし君に会えるなら 僕は死んでもかまわない 神様、どうか僕の実体の死が訪れますように 安らかに心の死がやってきますように 今度は悲劇を書いてくれるかな、アリストパネス すべてはタイミングでした。MOMOはこの書き込みを見つめていました。そして彼女は生活に疲れていました。男は苛立つと彼女に暴力をふるうようになっていましたし、彼女にはもう出口がないように思われたのです。だからこのカエルのストレートな情熱に少なからず心が揺れたのでしょう。 それに彼女の周りには、高収入や学歴を自慢する男、トワレで包んだ容姿を見せる男も大勢いましたが、誰も彼女の底にあるものを見ようとせず、どの男も彼女の表層しか見ていませんでした。時として、男好きのする女性は無私の言葉に弱いものです。再度言いますがすべてはタイミングだったのです。そしてまたMOMOはチャットに入るタイミングを迷いました。迷いながら、時間が経つほどに違う気持ちでカエルのこの高ぶる詩を少し気味悪いようにも感じました。しかしここで見て見ぬフリをしたら、その出口が完全に閉じてしまう気がして、彼女は魅入られたようにチャットに入りました。 道はいつもふたつに分かれている、どちらを選ぶかは神の裁量とも言うべき、その時のちょっとした気持ちのブレなのでしょう。左右に揺れる振り子がどちらに止まるかは誰にも分からないのです。 「今晩は>ALL<カエルさん、まだいる?」 「いるよ>MOMO<今晩は」 「さっき書いてた詩、誰に書いてたの?>カエル」 「えっ、見てたんだ?>MOMO<恥ずかしいな(笑)」 「いいじゃない、なんか羨ましくて。あんなに好きになられている彼女が>カエル」 書き込みですが、高い声の調子でMOMOは明るく話しました。 「MOMOさんのことですよ>MOMO」 MOMOはもちろんその気持ちに勘付いてはいましたが、あえて鈍感に振る舞いました。 「えっ、ウソ! でも本当なら凄く嬉しいけど>カエル」
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