460人が本棚に入れています
本棚に追加
「……っ田…と……子…」
彼の少し掠れた声が好き。
ちょっと硬めの髪も。
本を読んでるときの横顔も。
たまに見せる優しい瞳も。
全部…――
「原田桃子(はらだとうこ)」
「えっ…?」
バシッと、頭頂部に感じた衝撃と痛みに眉をひそめた。
大きな音がしたわりには、それほどの痛みを感じなかった。
むしろ痛みよりも、驚きのほうが大きかった。
「この問題」
「……っと、」
あたしのすぐ目の前。
丸めた教科書を持ったまま腕を組んであたしを見下ろすのは、さっきまで教壇で授業をしていたはずの九条先生だった。
「原田、答えてみろ」
「え、と……」
あははっと引きつった笑みを作りながら、先生を見上げていた視線を逸らして。
オドオドするあたしの頭上では、いまだに腕を組んだまま冷たい瞳で見下ろす先生。
どうしよう……
答えどころか、問題すらわかってないあたしには、答えを導く方法すらなくて。
慌てて教科書を開いて、隅から隅まで眺めてみてもどうしようもない。
今、何ページの問題をしてるのかもわからない。
最初のコメントを投稿しよう!