Ⅰ.

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「……っ田…と……子…」 彼の少し掠れた声が好き。 ちょっと硬めの髪も。 本を読んでるときの横顔も。 たまに見せる優しい瞳も。 全部…―― 「原田桃子(はらだとうこ)」 「えっ…?」 バシッと、頭頂部に感じた衝撃と痛みに眉をひそめた。 大きな音がしたわりには、それほどの痛みを感じなかった。 むしろ痛みよりも、驚きのほうが大きかった。 「この問題」 「……っと、」 あたしのすぐ目の前。 丸めた教科書を持ったまま腕を組んであたしを見下ろすのは、さっきまで教壇で授業をしていたはずの九条先生だった。 「原田、答えてみろ」 「え、と……」 あははっと引きつった笑みを作りながら、先生を見上げていた視線を逸らして。 オドオドするあたしの頭上では、いまだに腕を組んだまま冷たい瞳で見下ろす先生。 どうしよう…… 答えどころか、問題すらわかってないあたしには、答えを導く方法すらなくて。 慌てて教科書を開いて、隅から隅まで眺めてみてもどうしようもない。 今、何ページの問題をしてるのかもわからない。
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