Ⅰ.

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「桃子、また没収されんの」 「……あはは、ゴメン」 「どうしてか、数学だけ見つかるよね。 他の授業では取られたことないでしょ」 「そうなんだよね」 だって、数学だけだから。 ちゃんと授業を聞かないのは、数学だけなんだ。 先生の声を聞くとドキドキする。 無駄に鼓動が高鳴って、息苦しくなって、普通にしてられないから。 そんな状態では授業どころではない。 だから、何かで気を紛らわしてないと耐えられない。 気づけば彼を愛しそうに見つめてしまう。 どっちみち授業に集中できないのなら、誰かに気持ちがばれないように他のことで気を紛らわしていたほうがいい。 誰かに自分の気持ちを悟られたくないから。 必死になってそれを隠そうとしてるんだ。 ほら今だって、自分の意思とは関係なく、頬に熱が集まってくるのがわかる。 先生のことを考えるだけで、これだもん。 あはは、と空笑いするあたしを千晴は訝そうに見つめて。 「どうした顔赤いよ? 体調悪い?」 心配そうにあたしを覗きこんでくるから、慌てて両頬を手で押さえてブンブンと首を振る。
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