Ⅰ.

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少しでもあたしのことを知って欲しくて。 その後も数学を猛勉強した。 先生に褒めてほしくて、ひたすら頑張った。 わからないところを先生に質問に行ったり。 学校ですれ違うたびに挨拶だけじゃなく何か言葉をプラスして話しかけてた。 あたしのことを、少しでも気に留めてくれたらって思ってた。 生徒に人気のある先生の周りには、いつも可愛い子がいて。 その頃から佐野さんの姿もあって。 ずっと片思い。 このまま終わると思ってた恋。 教師なんて好きになったって、実ることのない恋。 誰にも言えなくて、密かにずっと思うだけの苦しかった思い。 だったらきっぱりフラれてから諦めようと、九条先生に告白したのが去年のバレンタインで。 『先生のことが好きなんです』 あたしの精一杯の告白。 真っ赤になって、でも先生の目をちゃんと見て。 あたしの気持ちだけ知ってもらえればいい。 『ゴメンな、原田』 申し訳なさそうに眉を下げて。 『原田はそういう対象には見ることができない』 でも、あたしの気持ちをただの“憧れ”と一緒にしないでくれた。 『でも、ありがとう』
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