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「一旦下がるぞ!」
完全に混戦状態で、最早生き残るには運が必要になっていた。だけど一部の人間は偶然を必然に変え、上手い具合に戦っている。こうやって動けるのも指揮官である中尉のおかげで、僕みたいに正面の敵しか見ていなかったら、後ろからだったり横からの一撃で呆気なく絶命する。
だけどそういう部隊は敵に厄介な存在だと思われるのか、じわりと敵の密度が高くなる。周りからどんどん味方が消えていた。
「……まずいな」
中尉がぼそりと呟いた。敵の方が一枚上手なのか、僕たちはどんどん孤立していった。敵の数は減少しているが、味方はそれ以上に減っている。数の利まで無くなれば勝ち目は無い。
「どうします? 中尉」
取り敢えず指示を仰いでみる。三十二度の死を経験してなお新人の僕には、一体何が最良の選択か分からなかった。
「……進むぞ、前進だ。どうせ死ぬなら敵の頭を取ってから、だ」
中尉は笑いながら言った。そこに悲壮感は無い。何故だろうか。僕と違って死ねば終わりなのに、何故そうも笑えるのだろうか。……もしかすると実はみんな繰り返しの日々を受けていて、それぞれがそれぞれ都合の良い夢を見ているのではないか。不意にそんな事を思った。
「行くぞ! 我々第一分隊はこれより! 決死隊となる!!」
進むとなれば、それこそ死角とかそんなものは関係なくなる。厚い敵の層を通るのだから、剣を振り回す敵の真横を無理矢理通らなければならない。先頭を切る人はそもそも全ての敵と当たるのだから致死率は上がり、最後尾は阻む味方が居ないため常に後ろから敵に狙われる事となる。
そんな中、僕は中心だった。先頭は中尉で、後ろは分からない。振り返っている余裕なんか無かった。
「あいつだ! あいつを殺れ!」
誰が言ったかは分からない。中尉か、もしかすると僕だったかも知れない。行く先には青い鎧の王国軍の中で、唯一黒い鎧を身に纏った男が居た。仲間に伝えようとして振り返ると、敵が僕に斬りかかるところだった。無様に転がって身体を汚しながら敵の一撃を避け、僕はお返しとばかりに敵の足を切り払った。
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