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頼もしく思えた屈強の兵士が、切り結ぶ事もなく絶命した。
寝食を共にした年の離れた友が騎兵に蹂躙する様を、僕は遠くで見ていた。
息遣いが聞こえる。雄々しき声は悲鳴に変わり、そこかしこで女の名前が聞き取れた。
サラ、サラ。
右に倣えと僕も幼馴染みの名前を叫ぶべきだったのかも知れないが、漏れ出る音は否定だった。
「いやだ……そんな」
目前に王国の兵士が居る。剣を振り上げた。
僕は帝国から支給された長剣を抜く事すらせず無様にも尻を地に付けている。こんなはずではなかったのだ。勇者に憧れ、王女との恋物語を期待し、幼馴染みのもとに戻る事を誓った。だけどそれは叶わない。
敵が剣を振り下ろした。
遠い。どこまでも遠い。こんなにも身近な出来事だというのに、僕には迫りくる死がとてつもなく遠いものにしか思えない。
――――そうして僕は、初めての死を経験した。
「クレール、そろそろ支度しないと遅れるわよ!」
ばしん、と胸に衝撃が走り、僕は飛び起きた。心臓が止まったと思った。いや、止まったとしか思えない。そもそも脈動している事自体が異常で、目の前の幼馴染みは幻にしか過ぎない。
夢だ。走馬灯か、それともこれが死後なのか。何れにしろ泡沫の夢でしかない。浮かび上がった泡は消える定めにある。それは神様が設計した世界で、僕の常識でもあった。
「何呆けてんのよっ。初陣でそんなんじゃ、流れ矢に当たっても知らないんだからね!」
辛辣な言葉だ。でもそれは言葉を鵜呑みした場合のみに適用され、つい昨日まで号泣していた姿を知る者にはそれがただの強がり、心配の裏返しだという事が分かる。サラはそういう人間だった。
「ちょっと、聞いてるの!?」
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