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頬を両手で挟まれ、強制的に彼女と面を向かう形となる。透き通った碧眼が燭台に照らされた部屋で煌めいた。
僕はその段階になってようやく、まじまじとサラの顔を見つめた。
両親の手伝いとして弟たちに混じり農業を営んでいるというのに、その肌は病的なまでに白い。肩で切り揃えられた金髪が動きに合わせてさらりと音を立てる。……紛うことなき美人である。まだ美少女といった方が適切かも知れないし、以前の僕は認める事はなかったが確実に村一番の美少女だ。
「サラって……かなりの美少女だよね」
瞬間、衝撃が頬で炸裂した。
強制的に右を向かされた首の筋が少々のダメージを残している。
僕は死後も痛いんだ、とどこか見当違いの感想を頭の中で述べながら、首を労わるようにそっと正面を向き直した。……そこには雪のように白い肌を鮮血のように赤く染めるサラが居た。耳まで赤くなっており、毛はどことなく逆立っているような気がした。
「ば、馬鹿にしてるのね!? そうね、そうに違いないわ! クレールの癖に生意気!!」
彼女は喚くだけ喚くと、凄い勢いで部屋を出ていった。
ぽつんと一人自室に取り残され、僕はする事もないので辺りを見渡した。僕の部屋だ。昨日脱ぎ散らかした服も、読みかけの羊皮紙もそのままにしてある。
「……昨日?」
昨日とは死の数日前、初陣による興奮でなかなか寝付けなかったあの日の事だ。あの日置き去りにし、そして失われてしまった世界が広がっていた。
司教様は死後、魂は善道と悪道に振り分けられると仰っていた。善道を進む魂は肉体が消滅したあとも、同じく善道を進む愛すべき人との再会が約束されているらしい。となるとこれがその再会なのか。しかし僕は確かにサラを好いてはいたが、サラも同時に僕を懸想していたとは考えられない。それは希望的観測でしかない。
愛すべき者が居て、その愛すべき者には別の愛すべき者が居る……この場合、天はどういった処置を施すというのだろうか。もしかすると都合の良い愛すべき者を創ってしまうのでは……そう考えてしまい、ぶるりと身を震わせた。
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