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人の創造は禁忌だ。昔あらゆる病や怪我を治す聖女は、神を語る魔女として火刑に処された。
しかし……神であれば赦されるのだろうか。僕は偽りのサラを前に、笑う事は出来るのだろうか……いや、出来るのだろう。だから寒気を感じたのだ。外見は寸分狂わず一致して、自分に好意的な者であればきっと思考を停止してしまうだろう。だけれどそれは、考えられる限り最大で最低の冒涜に思えた。
「これは夢なのか?」
自問する。答えは出ない。それどころかぐぅ、と腹の虫が鳴く始末。
死んでも腹は減るのか、と我ながら妙なところに関心を覚え、朝食を取るために自室を出た。
「お腹空いた」
「うっさいわね! 座って待ってなさいっ」
サラはこちらを一瞥すらしなかった。しかし耳の赤みは取れていなかった。
彼女が温めているのはスープだ。名前も無いし具材も毎日変わる。たまに豪勢な日は一欠片の肉が入っており、今日は――――かなりの量の肉がスープの中に隠れていた。記憶の中での今日は、という注釈が付くが。
「お待たせ」
照れ隠しか少々乱雑に置かれた皿にはなみなみとスープが入っており、記憶と寸分違わず肉も入っていた。香辛料は高価なので少量の塩で味付けされたそれは決して美味しいものではないのかも知れないが、いつも食べているものなのでよく分からない。ただ言えるのは、今日は肉が多い分味も良い。これに固めのパンを付けて食べれば農作業も捗るというもの。ただし今日はその作業はなく、僕は領主様の元へ参上しなければならない。
それは冷害があったとはいえ、規定分を献上出来なかった事に対する罰であった。
本来なら献上分は足りていたのだが、サラの家が足りなかった。弟たちもまだ若く、反対に親父さんはもう年だ。戦争に耐えられるとは思えない。だから僕が犠牲となった。
どちらかといえば本を読む人間なので戦争に不安を感じないわけでもなかったが、一応農作業もこなしていたのでまあなんとかなるだろう、くらいにしか考えていなかった。活躍すれば少額だが報奨金も出るため、新しい本が買える! なんて夢を見ていた。
夢を見た結果、今夢を見ている……なんともいえない皮肉だ。
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