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答えは出ない。出ないまま懸命に身体を動かそうとする。死にたくはなかった。
「――――け。……動けえええええ!!」
敵が振り上げた剣を振り下ろした。
僕は絶叫しながら支給された剣を抜き放ち、気が付いた時には地面に佇んでいた。
下を見る。
首から血を流す王国の兵士が居た。
かひゅ、と穴から空気を漏らしながら懸命に両手でそれを塞いでいた。しかし血は止まらず、やがてびくんびくんと痙攣しながら絶命した。
「……死んだ?」
いや、殺した? 僕が?
その疑問に答えが生まれるより早く、僕の首は胴体から離れた。
「クレール、そろそろ支度しないと遅れるわよ!」
ばしん、と胸に衝撃が走り、僕は飛び起きた。首を撫でるがちゃんと付いている。
「お、おはよう、サラ」
「おはよう。もうすぐご飯出来るから、早くしてよねっ」
また僕に奇跡が起きたようだが、こんな奇跡は要らなかった。繰り返しなのか生き返りなのか判断出来ない。どうでもよかった。
「クレール? どこに――――」
サラを置いて走った。支度も何もしていない。取り敢えずこの場から逃げようと思った。二度の死と一度の殺しに、僕の頭は内側から破裂してしまいそうだった。
目的地はとくに決めていなかった。走り、疲れたら歩く。たまに小川で水分補給をする。
取り敢えず戦場から離れれば離れるほど、僕の身はより安全になる。殺される事も殺す事もなくなる。だから走った。
隣の村に着いた時、ようやく僕はお金すら無い事に気が付いた。これが都市だったら中に入る事すら叶わない。そうやって外に出来たスラムには居られるが、そんな治安の悪い所で寝泊まりはしたくない。
幸いにして、隣村には知り合いが何人も居る。少し迷惑そうではあったけど、僕は寝床を得た。
そうして二日が過ぎた。農作業を手伝えばご飯も出して貰えたが、そろそろ頃合いだと思った。帰らねば。
「はよう帰れ。サラちゃんに心配をかけるな」
知り合いは言った。僕も頷いた。きっと僕を弾糾する役目の人は死んでいるだろう。
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