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「いつもこんなに早ければいいのにね。……帰ってくるのも」
ぼそりと呟かれた言葉も、これで幾度目か。聞き逃す事は無かった。
「帰ってくるよ、すぐにね」
聞かれるとは思っていなかったのか、彼女は僅かに目を見開いた。次いで、口を開く。
「生きて、帰って来てよね?」
僕はその言葉に返答はしなかった。既に三十二度、死んで帰ったからだ。
◇
「君は……そうだね、うちの隊に入って貰おうかな」
おや? と首を傾げる。
いつもなら色々な隊をたらい回しにされた挙げ句無駄に日を消化し、結局遊撃隊に入隊するのが常だったからだ。
そんな繰り返しの中で、いきなり第一分隊に入る事になるとは予想もしていなかった。どのくらい凄いところかは僕自身もあまり理解は出来ていないけど、少なくともエリートの集まりである事くらいは知っていた。何せ僕以外は全員『職業・兵士』なのだから。
「所詮分隊だから大規模な動きとかはないけど、その分連携が大事になってくるからね。頼んだよ新人君」
取り敢えず頷いておく。殺される恐怖も薄まってきたし、殺す抵抗感も無い。とっくに戦場での童貞(、、)は捨てている。
「ああ、あと自分はアラン中尉だ。よろしく、クレール一等兵」
「は、はぁ」
差し出された手を握る。どうやら僕は一等兵扱いになるらしい。帝国では二年兵とも呼ばれるこの階級はその名の通り二年以上戦場、もしくは兵士として活動をした者に与えられる階級だ。もちろん戦争の活躍次第ではすぐにでもその上の階級になれたりもするが、僕みたいになんの成果も挙げていない人間が名乗れる階級じゃない。
流石はエリート部隊、っていう判断でいいのだろうか。アラン中尉も、普通はこんな前線に居るような人では無い。少なくとも小隊長以上を指揮するような階級の持ち主だ。
「くそ、報告はまだか!?」
いつものが始まった。そろそろ敵の部隊が強襲して来る頃合いだ。
「……斥候が戻ってこないようだね。クレール一等兵、君はこの現状をどう見る?」
問われ、おざなりに返しておく。
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