第1章

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それは我が家が山中の一軒家であった頃。 家はお寺の中からしか上がれなかった。 幼い彼は帰りの道が怖かった。 お寺の門前を上がって納骨堂の裏手に回って入ってゆく。 そこには大きな桜の木が両側から鬱蒼と茂っていた。 まるで何かがそこに埋まっているかのように。 その鬱蒼と茂っている桜の道のりを超えた所が一層怖かった。 幼い彼は、びくつきながらも桜の森をやっとの思いで上がってゆく。 昼間までも葉桜で薄暗い森をやっとの思いで越えると、現れるのは、15ワットしか無い裸電球だけだった。 昼間はまだ良いが、幼い彼はこの道を夜の9時頃に帰っていた。 この道は私道なので、申し訳程度の裸電球と手入れのされて無い原生林が広がっている。 裸電球に照らされて辺りはより一層闇が濃く見えた。 電球の下へ、長い影を背負った彼が書道具を持って歩いてゆく。 裸電球を超えると急に影が大きく伸びて来る。 まるで、影が彼に襲いかかったかのように。 彼は一瞬息を呑む。
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