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「春っておかしいと思いませんか?」
ああ、春が来る。気持ちのいい陽気だ。
そんなことを思っていた昼下がり、春、それにしては痛い日差しを受け、彼女は呟いた。
大きな瞳、控えめな唇。
柔らかく風に揺れる、短い髪。
なぜ、僕がこんなにも細かに観察しているのか。
「えーっと……?」
そりゃ、全く知らない赤の他人だからなワケで。
「皆が始まりだと祝うんです。春は、入学も入社もありますから、確かに始まりなんですよ。
でもね、新しい環境で心機一転とか、イメチェンとかおかしくありませんか?」
彼女は言った。
見ず知らずの僕の前で、新しい季節に先ほどまで高揚していた僕が返しに困っているのを良いことに、つらつらと言葉を並べた。
「みんな浮き足立って」
おかしいですよ……。最後絞り出したような細い声で呟いた彼女は、呆気にとられる僕を置いて走り去った。
「え、誰だよ……」
僕は公園のベンチに腰掛け、読みかけの小説のページを開いたまま、しばらく彼女が去っていった方向を眺めていた。
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