3人が本棚に入れています
本棚に追加
「春はおかしい、か 」
目を細め、窓の外を眺めながら復活した彼は呟いた。
「なんだよ」
ので、僕は眉をひそめて聞き返す。
「期待が終わる季節ではあるよな、とか思った」
「ん?」
「なーんか、学年変わったり、それこそ中学から高校に上がって、何かが変わる気がして、期待すんじゃん。
でも、実際何も変わらないことに気づいて、終わる」
「ああ」
彼は淡々と、呟く。
「そういうとき桜見て、『わーめでたい』だけじゃないし、そういう意味でなんか気持ちの悪い季節なのかもな」
そう締めた彼の目は、窓越し、咲き始めた桜に向けられていた。
「……」
こういう表情をすることもあるのか。
会う度、スポーツと女のことしか話さないような、阿呆でも。
そんな、若干失礼なことを不意に思った僕の視線の先、彼はふっとため息をつき、ニヤリと笑う。
「でーも。折角話しかけられたのに、何のアクションも起こさないお前は、スタートラインにも立ててない」
訂正、やはりただの阿呆だった。
「ちゃんと返して男を見せれなくちゃ、なあ?」
初対面の通りすがりに訳分からないことをいきなり言われ、男を見せる返答ができたなら、人間として何かが欠落しているに違いない。
「阿呆」
僕は、先ほど思い直した結論を、正直に口に出してやった。
最初のコメントを投稿しよう!