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自転車を押す、帰り道。
いつも通る、蕾が開けば桜のトンネルになる川沿い。
空は茜。その空を映す川の水面も茜。
時折、魚が水面から飛び出し、吸い込まれるように水面に消える。
間もなく桜が咲くこの季節。
“おかしい”とか“気持ちが悪い”などという感想は、今まで持ったことがなかった。
しかし、考えてみればこの季節、醒めてるなどと言われる性格の割に、浮かれるまでいかないにしろ、楽しみにはしていたように思える。
何を? 僕は何を楽しみに待っていた?
足を止め、上を見上げる。
開きかけた蕾たちがそこにはあった。
僕は確かに、彼が言うような期待を抱いていたのかもしれない。
彼女が言うように、気づかないうちに浮き足立っていたのかもしれない。
でも、それは駄目なのだろうか。
僕はまた、自転車を押して進み出す。
度を過ぎれば考えものだが、良いことではないだろうか。
季節が変わって、前向きになろうとすることは別に悪いことではない気がする。
それで思うような結果が得られなくても、だ。
自転車のタイヤの回る音。それが間隔を置いてゆっくりと鳴る。
ふと、視界に人が写り込む。
僕はその人物を確認すると、自転車を停め、そちらへと足を進めた。
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