見る阿呆は踊ってみる。

6/8
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
「あのー……」  声をかければ振り向く、見覚えのある顔。  大きな瞳、控えめな唇。  柔らかく風に揺れる、短い髪。 「この前の人ですよね? 公園の」  その大きな瞳は、大きく揺れた。 「いいこと……」 「え?」 「あ、いえっ! えっと、あの、あの時はすみませんっ!」  何かを呟いたと思えば、頬を赤く染め、両手をバタバタ動かして謝った彼女。  僕は苦笑いを浮かべながら、口を開く。 「いや、別に良いん」 「出来心だったんです! ずっと話しかけたかったんです! でも、出来なくて! 周りの娘みたいに新学期の勢いとか、占いの勢いとか借りればいけるかと思って! でも、こんなに髪短くされちゃって! イライラしちゃってそれでっ……!」  僕の言葉を遮り、彼女の口からマシンガンのごとく放たれる声。  その内容のせいで一瞬、脳がパニックを起こし、停止した。  友よ、僕にはここで気の利いた言葉を返すことは、できそうにない。  そんなことできようものなら、僕は自らの人格を疑ってしまう。 「……あ」  彼女は目を見開き、自らの口を覆って固まり、困惑した表情を僕に向けた。  それを可愛いと思ってしまったことは、置いておくとしよう。  それより、僕の頭の中の混乱をどうにかする方が先だ。 「えーっと。取り敢えず、落ち着きません、か?」 「……はい」
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!