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「実は前から、話しかけたいな。と思ってたんです。でも、そんなことできないから、公園ですれ違ってちょっと見る程度」
整備された歩道から外れた場所にある細い幹。
他と品種が違うらしいその桜は、ピンクの花を咲かせていた。
その下に腰をおろし、隣で彼女は話す。
「どこかの阿波踊りの歌いだしのフレーズ、それを不意に思い出して。ちょうど春だし、踊る阿呆になってみよう。春に踊らされてみようと思ったんですよ」
そこまで言うと、彼女は恥ずかしそうに俯いた。
「咲こうとしてる桜も、背中を押してくれているような気がして」
膝を抱え、更に小さくなり、母親に怒られ言い訳を始めた子どものように、ぼそぼそと続ける。
「普段は信じない占いで、“髪切ると良いことがある”っていうから、それにも踊らされて、美容院に行って。そしたら、こんなに短くされちゃって、イライラしちゃって。それで、落ち込んでここへ来たら、ベンチにあなたがいて。なんか、溢れ出ちゃって」
「居ない方が良かった?」
僕がそう言うと、彼女は勢いよく首を振った。
「目の前に行くまでは、普通に声かけるつもりだったんです」
「それって」
「柄じゃないし、今どきおかしいのは分かるんです。その、所謂ナンパみたいなコト」
つまり、八つ当たりであり、ナンパであったということ。
友人と僕の予想は両方正解だったらしい。
予想と言うより、流れで出た冗談のようなものだったが。
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