見る阿呆は踊ってみる。

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「あの、それで……ナンパされてくれませんか」  あまりに真剣な顔をしてそれをいうものだから、僕は堪え切れず、少し噴き出した。 「なんか、新しい」 「あ……すみません」  この娘は、何度謝るつもりなのだろうか。  自然と頬が緩む。  風が吹く。  満たされるというか、安らぐというべきか、いつも以上に心地よい風に感じる。  それが、彼女と話したからなのか、はたまた、春という季節のせいなのか。定かではない。  定かではないが、僕も、踊ってみるのも良いかもしれないそう思い始めたのは事実。  やはり、春は始まりの季節だ。  そう期待して、何が悪い。 「どこ行きましょうか?」 「えっ……」  僕が言えば、彼女は目を見開いた。 「折角だし、ナンパされます」 「えっと、はい」  大きく瞬きを繰り返しながら、小動物が周囲を見渡すようにキョロキョロと顔を動かす。  彼女の動揺らしい動揺を見つめながら、僕は本来、どこに行く云々の前に聞かなければならないことを思い出した。 「と、その前に名前ですよね」 「あ、私も……」  彼女と僕は顔を見合わせ、お互いの困惑した顔を見て、笑いだす。 「おかしいですね、私たち」  そう言って笑う彼女を見、“こういうのも悪くない”そう思った僕は――いや、もしかしたら彼女に出会った時点から、春や頭上で咲く桜に、既に踊らされているのかもしれない。 -Fin-
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