第2章 生まれ変わる人

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銀行だって、出自が悪ければ社員としては取らないが、客ならば出自なんかよりどれだけの資産があるかで人を判断する。 ある意味、我々はアメリカ社会の黒人の立場に似ている。 彼らも今まで社会でのし上がるためには、スポーツ選手や芸能界で成功する以外になかなか社会では成功できなかった。 最近では弁護士のような職業に着くものも出てきているがね。 でもそれはほんの一握りだ。 わたしは、自分の力だけで社会でのし上がった。 そして、自分の蓄えた資産で昔、私をただその出自ゆえに自分達の組織に入れることを拒んだやつらに復讐しているのだよ。 私の資産で利益を得ているそいつらに、昔、彼らが私を自分達の組織に入れることを拒んだことを伝えると、 「いや~あ、なにぶんにも会社の暗黙の内規にしたがったまでのことでして、 個人的には出自など何とも思ってはいないんですよ。 それに藤堂さんくらいの人物なら、我々のような組織人間にならなくても、必ずや社会で頭角を現してくるはずの人ですから。 」 などと、慇懃無礼さながらに、お世辞たらたらの返事を返してくる。 じゃ、私が一匹狼で勝負できない組織型の人間だったらどうだったんだ。 たとえ、優秀な能力を持っていたとしても、きっと一生恵まれない苦労続きの人生だったに違いない。 やつらが、今でも腹の中で、我々を軽蔑していることは百も承知だ。 利害関係を持たない間柄ならば、誰がこいつなんかと、と心の中で思いながら、二枚舌を巧妙に使い分けているやつらだ。 軽蔑するのはこっちの方だが、こちらに資産がある以上たとえ表面上であっても、やつらは私に頭を下げざるを得ない。 自分の力をやつらに認めさせて、下手に出(で)させること。 それが彼らに対する私の復讐なのだ。 所詮彼らとの溝は埋まらない。 金を仲立ちとした関係だけがただひとつ信じられる関係だ。 だからこそ、社会の中にこのような理不尽な扱いが横行している以上、そのようないわれのない扱いを受けている前途ある優秀な青年男女を私の会社に積極的に受け入れることこそが、私に課せられた使命だと思っている。 彼らを受け入れてくれるところは、全く偏見を持たないリーダーのいる会社か、我々のようにそのことで辛酸をなめたリーダーのいる会社しかないのだから。 それにしても、君は会社に就職するような立場でなくてよかったね。」
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