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第3章 第2の変身
【真面目な事務員】
江梨は、葉子のマンションに帰ると、鏡を持って西麻布の自分のマンションに帰った。
「∀∃∠⊥⌒∂∇」
呪文を唱えて、
「もとへ戻れ」と言った。
鏡の中には江梨がもどっていた。
葉子は自分のマンションに返ってきたところまでの記憶を持ったまま、甦った。
これからどうするかは彼女次第だ。
葉子に復讐しようとして、彼女の生活を覗いたが、思いもかけない展開が待っていて、江梨は、これ以上葉子の世界に深入りしないことに決めた。
長期の休みを取るはずだったが、1日休んだだけでJ大学に復学した。
そのあとしばらくは、普通の女子大生の生活に戻っていた。
江梨が通学中の大学には、当然ながら学生課があった。
学生生活に関する様々な事務を担当するのが学生課である。
その中に、おおよそ地味で男になど縁のなさそうな冴えない女事務員がいた。
その女は添木佳那子といった。名前まで地味である。
だが、こんな女が以外と裏ではとんでもない生活をしていたりするものだ。
何もなければ失敗だが、わたしがそれによって失うものはわずかな時間のみだ。
江梨は、持ち前の嗅覚になにか臭うものを感じて、この女になり変わることにした。
「δεζηθικλ、添木佳那子になれ。」
鏡の中によく知っている添木佳那子の顔が現れた。
服装は自分のままだが、きつくも緩くもない。
さて、添木佳那子になったのはいいが、彼女の秘密を知るには自宅に潜入する必要があるだろう。
佳那子になった江梨は、まず学生課の彼女の机に座り、一日佳那子になりすました。
午後の5時になり、ロッカーのかばんの中から自宅のマンションの鍵を取り出すと、早々に部屋を退出した佳那子は、自宅には帰らず品川にある美容外科の病院に向かった。
多数の客が訪れるために、比較的安価で美容外科の手術を行う病院である。
回りを見回して知っている人間がいないことを確認して美容外科の病院のあるビルに入った。
エレベーターに乗ると、受け付けのある3階のボタンを押した。
もう何度も訪れている場所である。
添木佳那子は、小さい頃から目立たず真面目だけが取り柄の女の子だった。
特に勉強ができるわけでもなく、スポーツは下手くそで取り立てて体力がある方でもなかった。
歌は音痴で絵の才能もなく、料理は下手くそだった。
ただ、字はきれいで計算が早く事務員になったのは当然の成り行きだったろう。
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