第2章 生まれ変わる人

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【川口葉子の世界】 「δεζηθικλ、J大准教授の川口葉子になれ。」 鏡の中によく知っている葉子の顔が現れた。 江梨は浴室に行ってみた。 ドアを開けると、空室の浴室の中でシャワーが出たままになっていた。  ~よし、これで葉子は私が江梨に戻るまではこの世に存在しなくなった~ 江梨は、脱衣場で葉子の脱いだ衣服に目を落とした。 葉子は江梨よりも背が高い。 江梨の洋服は窮屈だった。 すぐに、江梨は脱いであった葉子の衣服に着替えた。 下着は、部屋の中の葉子の洗濯済みのものにはき替えた。 葉子の携帯を調べる。 大学関係の電話番号以外に、数人の男性の番号が登録されてある。 これらが葉子とどういう関係の男達なのかは、江梨には全てお見通しだ。 葉子になり代わるのは体だけではない。 さっき言ったように、記憶や能力や嗜好もそのまま引き継がれる。 唯一違うのは、私が葉子に成り代わった江梨だという意識が葉子になった私にあるということだけだ。 だから、明日から大学の授業にも出て講義もできるし、彼女のこれからの予定も全て知っている。 そこが単なる変装とは全く違うところだ。 DNAのレベルまで本人に成り代わるのだ。 大学には、絵梨として長期の欠席届けを出しておいた。 翌日、大学で葉子のゼミがあった。 当然だが、江梨はいない。 だが、ほかの学生にも葉子から見て前の江梨のように生意気だと思う学生は何人かいた。 気に入らない学生は、徹底的にしごいていじめる。 あるいは評価を落とす。 江梨は葉子になりきっていた。 しかし、江梨の目的は葉子に成り代わることで終わったわけではない。 あくまでも、数年間に渡っていじめられてきた、葉子のアキレス腱を突き止めて復讐するのが目的なのだ。 葉子に成り代わりながらも、つくづくこいつは嫌な女だと内心江梨は思っていた。 明日は土曜日。 大学で葉子の授業はない。 夜7時に斉藤譲 (ゆずる)という男から電話があった。 「明日休みだろう?  会いたいな。」 以前、葉子が通っていたエアロビ教室のインストラクターの男である。 もう何度もホテルで会ってる男だ。 またいつものホテルへの誘いである。 こちらから誘う場合もある。 ペイはヒフティヒフティ。 お互いに楽しめればいいという関係だ。
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