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成長が早くなるように改良された桜の苗木を作り出し、汚染の低い土壌でつぼみの段階まで成長することが出来た。 汚染度が低い土壌では満開まで成長することも分かった。ここで汚染度の高い土壌に移しても、満開まで枯れることが無ければ実験は成功だ。 それにしても、何でだろう。なぜ、博士は桜を作らせたのだろう。 僕は今まで、観賞用の木や花をいくつも作ってきた。それらではいけなかったのか。あるいは、桜にする理由があったのか。 わざわざ開花する期間の短い桜にする必要性はなんだろう。桜と言えばだが、そういえばもうすぐ春になる。 もしかしたら、破壊された環境のせいで言葉だけになった季節を、人々に感じさせたいのだろうか。だが、春の花は他にも色々ある。 僕が悩んでいると、博士がやはり僕のラボに入ってきた。 「やあ博士」 「やあスプリング」 「実験は今の段階まで順調です。あとは、汚染された土壌で、つぼみから満開になるまで維持できれば実験は成功になります」 「そう、よかった……」 「ところで、一つの質問があります。よろしいですか?」 「うん、何?スプリング」 「なぜ、僕に桜を作らせたのですか?人々に見せたいにしても、他の木、例えば桃の木ではダメだったのでしょうか?」 「そうねー、スプリング……強いて言うなら、人間だから、かしらね」 「人間だから、ですか?」 「そう、人間だから。人はね、時に意味も無く行動したり、何かを決めたりするの」 「つまり、あえて桜の木を選んだ理由は、意味も無く決めた、ということですか?」 「うーん、ちょっと違うかな。桜を選んだのは、私が好きだから。何で桜が好きなのかは理由が無いけどね」 「そうなのですか」 「それにね、スプリング。私は春が大好き。子供のころ、絵本で読んだの」 「どのような絵本でしょう」 「昔の、まだ自然があったころの絵本よ。そのときの春は、一面にお花が咲いていて、ピンク色の桜があちこちにあって、生命の息吹を感じる、とても素晴らしい季節なんだって書いてあったのよ」 「それは興味深いですね」 「だからね、いつかはみんなに春を見せてあげたい。私もこの目で見てみたい」 「僕が、博士のために春を作ります。そのための僕なのですから」 「ふふ。ありがとう、スプリング」
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