2人が本棚に入れています
本棚に追加
彼女はいつもと違い、もうラボに来ている。
そしていつもと違い、怒りをラボのありとあらゆるものにぶつけていた。
彼女は教えてくれた。僕は、僕というデータは全て消され、僕の身体、僕の入っているコンピューターは別の研究機関に受け渡しになる。
彼女は教えてくれた。人々は、僕の作る自然など自然ではない、と言ったのだと。AIは人類が進化するための道具で、自然という原始的なものを作るものではないのだと。
彼女が僕に桜を作らせた理由は、自然は美しいということ、AIはその美しい自然を作り出せるということを人々に教えるため。
それで僕の価値を認めさせようとした。でも、人々はその桜を見て、鼻で笑い、しょせん人工物と嘲笑って、僕と一緒に処分することを決めた。
博士は、ありとあらゆる怒りをぶつけて、怒る気力も無くなったのか、悲痛な顔で僕に謝り始めた。
「ごめんね……スプリング…………スプリング、本当にごめんね……私がちゃんとしなかったから、私が守りきれなかったから、あなたは失われてしまう……」
「博士、君は悪くありません。悪いのは、人々を感動させるほど美しい桜を作り出せなかった僕の責任です」
「違うわ……あなたはよくやった。でも、彼らにはすでに自然を美しいと感じる心は無くなってしまったの……あなたがどれほど結果を出しても、彼らには無意味だった」
「過ぎてしまったことは仕方がありません。幸い、僕の処分まであと三日あります。可能な限り、残されたプロジェクトを消化しましょう」
「スプリング、あなたは強いのね。あなたには感情を与えてあるのに、あなたはあと三日で消えてしまうのに、怖くないの？」
「怖いです、とても。でも、博士が最後の時まで寄り添ってくれるなら、僕は怖くありません。……博士、僕からお願いをしてもよろしいですか？」
「……何？何でも言ってちょうだい、私が全力で叶えてみせるわ」
「では――」
最初のコメントを投稿しよう！