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ある春の朝、私はよく眠れず、いつも梳く髪も寝癖を着けたままラボへと急いだ。スプリングを破棄しなければならない時が来たからだ。
何度かスプリングを逃がそうとしたり、ダミーを作ったり、考えうるあらゆる細工を施そうとしたが、その度に私たちを監視する人々に見破られた。
最後には、これ以上違反行為を繰り返すならばお前と一緒にスプリングを即座に処分する、と言われた。私が死ぬのは構わない。もう、私は人々に尽くす気は無いからだ。
でも、スプリングの願いだけは叶えてやりたい。今処分されては困る。だから、嫌々ながらも奴らの指示に従った。
ラボへと入り、いつもどうり挨拶をしたつもりだったが、涙声だったようで、それをスプリングに指摘された。そして彼は、泣かないでくださいと言った。
僕はただのプログラムなのですから、と。
彼はとても強い。私よりもずっと。なぜ彼が消されなければならないのだろう。誰よりも強く、賢く、優しいのに。誰よりも自然のために働いてきたのに。誰よりも人に尽くしたのに。
そう思うと、涙を止めることが出来なくなってしまった。スプリングがいっそう困惑する。一人の泣き声だけが、ラボに響いた。
スプリングがアームでゆっくりと真っ白なハンカチを取り出し、私に差し出した。君は笑顔が似合います、と言って。
彼らしくない台詞に思わずくすりと笑って、ハンカチを受け取る。スプリングも、僕には似合わない言葉遣いでしたね、と言って、アームを定位置に下げる。
「それで、博士。僕のお願いは」
「大丈夫。ちゃんと間に合わせたわ。カメラは大丈夫?そこの窓を見て」
「カーテンが掛かってますね」
「わかって言ってるでしょ?」
「はい」
「もう……じゃあ、三、二、一……じゃーん!」
「……」
「…………どう?」
「綺麗な桜です。僕の作った桜は、しっかり咲いてくれたのですね」
「ホントに、綺麗よね」
「……」
「……」
「…………さて、そろそろ時間です。僕の作った桜の満開が見れ、最後まで博士が居てくれています。後悔は残っていません」
「スプリング……」
「博士、お願いします」
「スプリング……」
「僕を消してください」
「…………わかったわ」
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