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「……やめてぇ」
泣き疲れ、弱々しくなった少女の声が暗闇の中で哀願する。
「許して……痛い……痛いよぉ……」
梨花は聴きながら、これは誰なのかと考えた。私の声なのか、それとも。
頭の中は汚泥が流し込まれたように濁っていて、梨花は自分が何をしているのか、どこにいるのかすら分からない。塞ぐことのできない耳から、ただひたすら少女の悲痛な叫びが入ってくる。
「も、やめ……なんで……」
誰が言っているのか。誰に言っているのか。全てが分からないのに、切迫した声だけがすがるように言葉を紡いでいく。
「いや……嫌あぁ……」
鼓膜を突き破ってしまいたい、と梨花は願う。心を引き裂くような、平穏な日常を踏みにじるような、いつまでも自分を責め立てるこの声が、梨花は怖くてたまらない。
そして、突然。
世界と切り離されたような沈黙が訪れて、あたりは無音になった。
許されたのだろうかと気を抜きかけた直後、亡霊のような声が囁く。
「……どうして…………、梨花が」
直後、梨花は絶叫した。
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