不穏

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***  教室を出て右に折れる。左手に並ぶ網入板ガラスの窓が、ひっきりなしに雨に叩かれていた。右手には高等部二年一組のクラスがあるが、すでに無人で電気も消えている。校舎中に人の気配がないのは、カウンセリングのための人払いもあるかもしれないが、何よりこの豪雨のせいだろう。初等部は別館だし、二階にある中等部はもっと早めに下校しているので、今この校舎に残っているのは私たち高等部二年二組だけだ。全部活動はこの二ヶ月間というもの、謹慎という形でストップされている。 「暗い学校って、なんか怖い……」  きっと今明かりが付いているのは、教室と今から行く小会議室と、そして職員室くらいなのだろう。節電対策で歯抜けになった蛍光灯の灯る廊下は、どこか不吉な雰囲気だ。生命を抜き取られ、じわじわと死にゆく生物を思わせた。  ……『猫は蘇る』。  ふとその言葉を思い出し、梨花は頭を振った。最初は何も思わなかったけれど、今はなんだかとても禍々しく思える。  ――六宮くんが幽霊になって、また誰かを殺すってこと?  思わず顔が歪み、小走りになる。こんなことを考えるのは、きっと廊下の雰囲気に当てられたせいだ。早く明るくて誰かがいるところに行きたい。  その廊下を十数メートル歩くと、小会議室に突き当たった。引き戸のドアに付けられた擦りガラスからは煌々とした明かりが漏れている。ようやく梨花はほっとした気持ちでドアを開けた。
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