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「失礼します」
「いらっしゃい。どうぞこちらへ」
立ったまま笑顔で迎え入れてくれたのは美しい女性だった。彫りの深い顔は小さく、童話に出てくる妖精に似ている。緩やかにまいた茶髪をひとつに束ねているが、顔の淵には後れ毛が残してあり、女の梨花から見ても色っぽい。白衣を着ているところからすると医者か何かなのだろうか。長机の隣に座っている牧野と並ぶと、美男美女カップルだ。年の頃も牧野と同じ、三十路あたりだと思われた。
「ここに座ればいいんですか?」
パイプ椅子に座った牧野の正面には、布張りの椅子が置いてあった。その隣には何かの測定機器のような金属の箱が置いてあり、そこからコードが伸びて、牧野たちの机の上にあるモニターのようなものにつながっている。
「そうよ、その椅子に座ってちょうだいね。私はスクールカウンセラーの南鈴蘭っていいます。変な名前でしょ?」
言いながら、南は測定器にかけられていたヘルメットのようなものを手に取った。
「綾川梨花です。よろしくお願いします」
緊張しながら椅子に座ると、南はそのヘルメットを梨花にかぶせた。いたるところから無数のコードが伸び、機器へとつながっている。
「初対面だよね? 非常勤だから、初めて会う子ばかりなの。これは脳波を測定するヘッドギアで、危ないマシーンとかじゃないから安心して」
「脳波? あの、カウンセリングじゃ……」
「ぶっちゃけ証拠書類みたいなものだから、あんまり気にしないでね。生徒が本当にリラックスして会話に臨んでくれたか、それとも怖がっていたか、会話の内容も交えて、データとしてお上に提出しなきゃいけないの。ほら、この学校は国営でしょ? 税金を使ってるぶん、そういうとこチェック厳しいのよね」
砕けた口調でそう言うと、南は牧野の隣に座った。彼女の真ん前にモニターがある。
「正直、大雑把な心の変化とかは脳波に出ちゃうから、先に言っとくわね。隠されてても嫌でしょ? だから私このモニター見ながら話すけど、サッカー中継見ながら仕事してるわけじゃないから安心して」
「あ、はい」
南に気圧されながら、カウンセリングが始まった。牧野はどういう役割を果たすのか、黙ったままだ。
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