552人が本棚に入れています
本棚に追加
「じゃあ始めよっか。いきなりだけど、六宮君とは親しかったかな?」
「いえ、それほど……」
「事件のことは知ってるよね?」
「はい……」
「どこまで知ってる?」
「どこまでって……あの、いろいろ。キヨミツ君たちが目撃した話、噂になってて、それ聞いて」
「具体的には?」
「……目を……あの……」
口に出したくなかった。この人は、どうしてこんなおぞましいことを言わせるのだろう。
「――わかりました。ごめんね、嫌なことを訊いて」
「いえ……」
「じゃあ質問を変えます。事件を知ってから、何か変化はあったかな? 夜眠れないとか、落ち着かないとか」
「それは、まあ……でも、そんなにひどくは。実際に見てしまった人たちの方が、きっとすごく辛いと思います」
「ああ。射原貴代光君、千葉野鉄郎君、大森一君、壬生志信君ね。大森君が先生に知らせに行っている間にほかの子が通りかからなかったのは、不幸中の幸いだったわ」
しかし、そのあいだにキヨミツたちはおぞましい一部始終を本人の口からずっと聞かされ続けたのだ。梨花は想像し、自分だったらどうなっていただろうかと身震いした。
そして、壬生志信も目撃していたのは初耳だった。デカ森とテツならキヨミツを勝手に慕っているので分かるとしても、壬生は意外だ。デカ森以上に太ってはいるが、精神的な面は真逆と言っていい。またあの二人に捕まっていじめられていたのだろうか。そういえば、彼がたびたびパシリのようなことをさせられているのを見たことがある。
カウンセリングという名の事情聴取は、その後しばらくして終わった。牧野は一言も喋らなかったが、ずっと南の前にあるモニターを凝視していたのに梨花は気づいていた。
――あれ、本当に脳波だけを見る画面なのかな。
もやもやとした気持ちを残しつつ、梨花は部屋をあとにする。相変わらず雨音のうるさい廊下を戻っていると、校内放送が翔太の名を呼んだ。
最初のコメントを投稿しよう!