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「……?」
視界の端で明かりがついた気がした。前を見ると、教室の左上に据え付けられた薄型モニターから映像が流れている。
無音のため、最初はほとんどそれに気づく生徒はいなかった。しかしちらほらと気づく生徒が増え、その波が広がり、教室を出ようとした翔太も含めて皆がついにモニターの画面を見た。
「なに……あれ」
誰かのつぶやきは、梨花の思いと同じだった。色彩に乏しい画面は暗く、辛うじて誰かの足が映っているということが分かる。そのつま先は宙に浮いていて、水のような雫が定期的に垂れていた。
「女の足じゃねえか?」
「本物?」
「まさか首吊り?」
教室内のざわめきが次第に大きくなる。けれど映像はいつまでたっても足しか映さない。画面が固定されているようだ。
「これ階段じゃないか?」
葛城くさびが言った。確かに、画面の下には手すりのようなものが見える。
この校舎は『¬』のような形をしており、階段はその両端にある。このクラスは長い横棒の中央あたりで、カウンセリングを受けた小会議室は短い縦棒の下端に位置していた。
「俺、ちょっと見てくるわ。どうせついでだし」
ひときわ通る声で言ったのは翔太だ。すぐに「私も私も」とミリアたちが追従し、それに倣ってデカ森やテツたちも付いていく。梨花は迷ったが、何も知らないまま気味の悪い映像を眺め続けるよりは、とみんなのあとを追った。クラスの半数以上が、翔太の一声で大移動を始める。
一行は教室を出て左、カウンセリングをした部屋と逆方向に進んだ。その突き当たりに階段がある。
「なんにも見えねーけど」
先頭の翔太が到着した。階段の電気はなぜか消されており、視界が悪い。それでも目を凝らしたが、梨花も人影らしい何かは見えなかった。
「いたずらじゃない?」
「もうひとつの階段見てみようぜ」
次は小会議室の右奥、『¬』で言うところの短い縦棒の下端部分だ。
またしても大移動をしていると、待ちくたびれたのか牧野が小会議室の前に立っていた。
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