不穏

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 小会議室の隣にある階段を上る。当然ながら、ぶら下がる足も何にもなかった。ここは三階で、この校舎は四階建てだ。昼にキヨミツと上がったのもこの階段だった。  四階に到着する。生徒が残っていないため、照明はひとつ残らず消えていた。相変わらず弱まらない豪雨のせいで、足元すら覚束ないほど暗い。まるで廃墟だ。窓から見える雨雲が、幽霊のように薄ぼんやりと光っている。 「気をつけろよ」  牧野が、梨花の手を取った。想像していたよりも大きく温かい手が、華奢な梨花の手を包み込む。言葉も出ないほど張り詰めていた気が、少し緩んだ。こうして気遣ってくれる程度には嫌われていないらしい、と梨花は安堵する。 「先生、どこに……」  その反面、彼の目的は見えないままだった。化学準備室の前で立ち止まると、普段は施錠されているドアをカードキーで開錠する。 「入れ」  狭くて暗い部屋だ。奥には大きな窓があり、四方の壁は背の高い棚で覆われている。人体模型や訳の分からない生き物のホルマリン漬けが、夜光虫のように外光をおぼろに反射していた。怪談ばなしの王道だけあって、やはり不気味だ。
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