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「何か目的があるはずだ」
唐突にくさびが言った。彼は常に堂々とした喋り方をする。だから誰に向けるでもなく言った言葉でも、その場の人間はちゃんと反応を返した。
「なんだよ目的って」
「ただのイタズラなら、このタイミングであんな画像を流したりはしない」
「うちのクラス限定にする必要はないもんね。ましてやカウンセリング中とか」
ミリアが言うと、くさびは軽く頷いた。
「映像だって、手が込んでいる割には地味だ。普通なら逆にする」
「手が込んでるぅ? ただの足だぞ、アシ」
デカ森が馬鹿にするような口調で言った。しかし、あくまでくさびは淡々と返す。
「あの位置に足をぶら下げるとするなら、ロープか何かを使う必要がある。上の階段に掴まってぶら下がるにしては位置が低すぎるし、偽物を使ったにしては出来栄えが良すぎる」
「ジャンプした瞬間に撮ったとか?」
「あれは動画だ。何かの液体が垂れていた」
萌の案をにべもなく却下した。そして、妙な沈黙が訪れる。
「……けど、結局ふたつとも階段には何もなかったじゃない」
萌が拗ねたように言ったとき、一行は階段を上り終えて再び三階の小会議室前に着いた。くさびは何も答えず、彼女の呟きは宙ぶらりんになる。
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