一人目

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「あ、先生」  ミリアの声の先には牧野がいた。カウンセリングが行われているであろう小会議室の前に立っている。どこかに行っていたのか、それとも今部屋から出てきたのかは分からないが、ずっと立ち尽くしていたわけではなさそうだった。 「ああ、戻ったか」 「放送室、なんもなかったっすよ」  団子鼻を掻きながら由紀彦が言った。六宮の唯一の友達ではあったが、彼自身は社交的な部類だ。 「そうか……まあ良い。ただのイタズラだろう」  皆の頭を、くさびの言葉がよぎる。しかし、牧野にそれを言うものはいなかった。 「じゃあ、次のカウンセリングはキヨミツだな。教室か?」 「だと思います」  辺りを見回して、ミリアが答える。 「戻ったら呼んできてくれ。――ああ、翔太はもう終わったのか?」  後半は自分に向けてつぶやきながら、牧野は小会議室のドアをノックした。しかし、返事は返ってこない。 「南先生、終わりましたか?」  皆がパラパラと教室に戻る中、くさびだけはその光景を、つり気味の細い目でじっと見ていた。何かが起こるなら今だ、という予感があった。それが良いことなのか悪いことなのかは分からないが。 「南せ――」  ドアを開けた牧野は絶句した。そのまま固まったように立ち尽くす姿に、戻りかけていた生徒の何人かが気付く。 「どうしたんですかー?」  萌やミリアの問いかけにも、彼は答えなかった。異変を感じた生徒が、続々と彼に近づいていく。 「なんだなんだ?」  一番初めに覗き込んだのはテツだった。顎の大きな油っぽい顔に好奇心を滲ませ、牧野とドアのあいだに無理やり割り込む。
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