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「状況的に見て、他殺だ。両目をくり抜かれていた。絞殺後にやったと見ていいだろう。死後わざわざ椅子に座らせ、死体にメッセージまで書き添えていた」
その言い方に、静まった教室の空気が張り詰めた。敢えて言及する必要のないことを言う牧野の真意を、誰もが測りかねている。
「犯人はまだ分かっていない。翔太、心当たりはないか」
皆の視線が、教室の後ろに集中した。急に話を振られ、翔太は焦ったように答える。
「心当たりっつっても……いきなり死んだとか信じらんないくらいだし」
「直前まで南先生といたんだろう?」
「そりゃそうですけど。フツーに終わって、教室に帰ってきました」
「そうか。まあ良い」
翔太は自分が疑われたと感じたのか、不満げに口元を歪めた。
「今いないのは綾川梨花だけだな。あいつはカウンセリングが終わって寮に帰ったから、不自然ではないが」
「帰ったんですか?」
翔太が訊いた。牧野は、何をいきなり、という表情を浮かべる。
「ああ」
「何でわかるんです?」
それは、今までに見せたことのない表情だった。汚い虫でも見るような目で、牧野が翔太に言い捨てる。
「本人が言っていた」
「けど俺、梨花と約束しました。傘持ってくるの忘れたから、一緒に帰ろうって」
「それは残念だな。だが、お前の失恋話に付き合う義理はない」
誰も口には出さないが、クラス中が唖然とした。言われた翔太はショックを滲ませ、強く唇をかみしめている。こんな状況で、なぜ彼は態度を豹変させたのか。自分の生徒の中に、犯人がいると思っているのだろうか。
「さて、私はこれから職員室に行って警察に通報する。ここにいる皆は、私の許可なしに学校から出ることは許されない。分かったか?」
返事がない。しかし牧野は気にすることなく、そのまま教室をあとにした。
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