赤い果実

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「便所そっちじゃねーぞ?」  トイレの前を通り過ぎるテツに、デカ森が声をかける。キヨミツと翔太がいなくなってからしばらくして、二人も教室を出た。ションベン、と言ってテツが席を立ったのを、デカ森が追いかけたのだ。  今は『¬』で言うところの左端、階段の手前付近にいる。右手にはトイレがあったが、そこでは立ち止まらなかった。 「気が変わった。便所は後回しだ」 「何する気だよ」 「お前、ムカつかねぇの?」  足を止めてデカ森を睨む。 「キヨミツか?」 「ったり前だろ」 「そりゃムカつくけどよー……」  歯切れ悪くデカ森の言葉は途絶える。それがますますテツを苛立たせた。 「あいつこそ殺されちまえばいいんだ。……そーだよ、殺しちまえ」 「逆に殺されるだろ」 「二人でもか?」  テツの細い目が怪しい光を帯びた。再び、ゆるゆると階段へ歩を進める。 「暗がりで二人ががりで奇襲しちまえば、勝てると思わねえか?」 「ほ、本気かよ」 「本気だよ。大体もう死体はひとつ出来上がってんだろ。それが増えたところで問題ねえさ」 「そんなん上手くいくのかよぉ」 「木を隠すには森とか言うだろうが」
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