冷たいキス

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部屋の中では線香の煙で視界に薄らと靄(モヤ)がかかった。 その靄の中には祐介のお母さんがいた。 祐介の父親は祐介が中学の時に亡くなっている。 子供が多感な時期に夫を亡くし、それから女手一つで息子二人を育ててきたたくましい母親が、祐介の横で小さく鼻をすすっていた。 私に向けてくれた顔は、私を見るとさらに悲しみを色濃くした。 「…お義母さん」 私の言葉を聞くと、祐介のお母さんはその場で声をあげて泣いていた。 お兄さんはそんなお義母さんを支えて静かに部屋を出た。 テレビドラマでしか見たことのない空間が、今、私の目の前に広がっている。 煙の揺れる祭壇の前に横たわる遺体。 出入口に立ち尽くしたままの私からはまだ、その顔がよく見えなかった。 「…祐…介なの…?」 私はまだ 動けずにいた。
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