冷たいキス

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お兄さんとの電話はいつの間にか切れていた。 私の記憶があるのもここまで。 後のことはよく覚えていない。 私はしばらくその部屋で、クマのぬいぐるみと一緒にいたらしい。 スマホは持っていたものの、連絡も取れず、突然いなくなった私に、社内は大騒ぎになっていた。 ミーティングルームに突然閉じこもった私を見つけてくれたのは、市原さんだった。 「何してんだよ…」 彼の小さな呟(ツブヤ)きが、私の中には大きく反響した。 …そうだ、私、何してるんだろう。 『祐介が亡くなった』 そう聞いた気がするけれど それが真実なんて証拠はどこにもなくて 私は信じてなんていなかった。 さっきまでの電話が嘘か本当か 夢か現実かも判断できなくて 自分の状況を説明することが出来なかった。
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